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2009年05月14日

035 偽痛風 94歳女性

[症例] 94歳女性
[主訴] 関節炎
[初診] 5月
[既往歴] 高血圧、骨粗しょう症、変形性膝関節症、過活動性膀胱、多発脳梗塞、便秘症、腰痛症、GERD
[現病歴] もともとADL自立の高齢者。3日前、朝は体調よかったため寒い雨の日に畑仕事をしていた。その夕方より左膝関節に腫脹発赤疼痛出現し歩けなくなった。介護で少し体を動かすだけでも悲鳴を上げるほどだった。往診日、右足関節も腫脹出現し耐え難く、往診依頼あった。
[現症] 体温37.9℃、血圧127/45 mmHg、脈72回、SpO2 95%、
 左膝関節炎(+)、右足関節炎(+)、炎症徴候は右足関節の方が強い。痛みで体動不可能。
 心雑音(-)、足に明らかな外傷(-)
[西洋学的診断] 明らかな感染徴候(-)。偽痛風と診断。左膝関節液を穿刺すると約12mlの粘調、黄色透明な関節液あり。デカドロン4mg注入。検査提出しピロリン酸結晶(+)、尿酸結晶(-)。
[漢方所見]
(望診) 高齢者であり虚
(脈診) 浮

[判断と処方]
寒く湿った環境を要因として発症、関節炎は固定性なので、湿邪による関節炎と考えられた。
風邪の治療での基本処方である桂枝湯に、風寒湿を散ずる蒼朮、鎮痛作用・温める作用が最強の附子、浮腫をとる茯苓を加えた桂枝加苓朮附湯を処方。
鎮痛剤としてロキソニン、ボルタレン座薬を処方。

[経過]
翌日には畑まで出る状態に回復(転んだら困ると、家族に家に戻されたが)。
翌々日は、朝、「通常の3倍の速度」で摂食。その後嘔吐あり。胃に悪い痛み止めをやめたほうがいいと家族判断し中止、その後も疼痛なし。夕方診察に行くと、左膝も右足関節も炎症消失。ステロイド注入していない炎症がひどかった右足関節についても炎症消失していた。

(感想)
風邪に対しては漢方薬は対症療法ではなく治療を行うことができ、使用すると回復が非常に早く、また病後も症状を引きずりにくい。今回も一種の風邪と捕らえて治療したところ通常は考えられない速度で回復した。

入院している高齢者、大病または術後の偽痛風はこれとは違う機序。陰虚が強いときに発症する。桂枝加朮附湯に四物湯や六味丸を加えたら治らないか…。偽痛風は悪性疾患ではないが、高齢者の長期臥床とADLの大きな低下の原因となりやすい。何よりも苦痛が非常に強い疾患。NSAIDでの対症療法で回復を待つのではなく、積極的に漢方治療で治すことが必要と考えられる。