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2009年05月09日

034 右肘内側疼痛 62歳女性

[症例] 62歳女性
[主訴] 右肘内側疼痛
[初診] 5月
[既往歴] 高脂血症(内服治療中)
[現病歴] 5〜6年前から年に一回、腕の痛みが出現、整形外科受診し鎮痙薬、痛み止め、胃薬処方され様子を見ていた。今回も右肩から疼痛発症、徐々に疼痛部位下降し右前腕内側近位部に持続する鈍痛あり。毎年受診している整形外科が遠く行く時間を作れないため当院受診。
[他症状] 月経痛にこまったことなかった
[生活歴] 3年前退職。とてもストレスの多い家庭環境
[漢方所見]
(望診) 体重・身長 中肉中背痛み辛そう
(舌診)苔 白薄、先端紅、舌下静脈怒張、軽度の静脈瘤散在
(脈診)右 浮・実、左 沈・虚
(腹診)左下腹部圧痛あり

[判断と処方]
ストレスからの肝血虚、それを基点とした筋肉痛とオ血?

まず疼痛に対し救急処置とした。右前腕内側近位が痛いということなので、巨刺を狙って反対側の左下腿近位部を中心に鍼を行うことと決めた。鍼治療は受けたことはないとのことなので、軽めの応急処置のみで体質治療までは行わないことと決めた。
右腕の痛みは三焦経上にあった。右指間を診察すると、3〜4指間の圧痛が最も強い。三焦・心包経がストレスから最もゆがんでいると判断。
左趾裏を探ると、1〜5趾の中で2趾が最も痛み強い。両側足底1〜2趾間に魚の目あり。肝経のゆがみが強いと判断。

鍼開始。
左下腿、LR3 太衡を念入りに処置。腹式呼吸へ変化し表情和らいだことを確認。
LR7 膝関、BL57 承山、SP6 三陰交と経穴があることを確認しつつ取穴。右腕の疼痛許容レベルまで軽減。
右手 3〜4指の中手骨間に存在した経穴を取穴。前腕の疼痛ほぼ消失。

体質改善を今後もしたほうがいいと思われるが、鍼灸院での治療継続勧めるも望まず。漢方薬で体質改善をはかることにした。
桂枝茯苓丸処方。痛み止めとして芍薬甘草湯とボルタレン処方。3週間後にフォローとした。

[経過]
夕方電話すると、夕方頃から疼痛ぶり返したとのこと。朝の痛みが10なら7のレベル。
今後も調整必要と考えられた。

2009年01月16日

025 左下腹部痛 43歳女性

[症例] 43歳女性
[主訴] 左下腹部痛
[初診] 冬
[現病歴] 2〜3年前より原因の分からない2ヶ月に1回ほどの腹痛あり。4週前より咳と咽頭痛あり。1週間前より左腸骨とその内側が痛み始めた。咳をするとひびいた。4日前より痛み激しく、3cm大のしこりがあったため整形外科を受診するも明らかな異常認めず。内科受診するも明らかな異常なし。婦人科受診も明らかな異常なし。しかし痛み続くため総合内科を再受診した。
[他症状] 最終月経 1ヶ月前、外傷(-)、排便正常(血便なし、黒色便なし)、排尿障害(-)、浮腫(-)、
家族に風邪をうつし、みんな治ったのに自分だけが咳が続く(熱はひいた)、寝ているときや起きた直後がひどい、走ったときもひどく咳き込む
[既往歴] 右眼内腫瘍(手術で摘出)、虫垂炎(手術)、健診で胃の入り口がゆるいといわれたことあり、
[生活歴] タバコ(-)、酒(-)、
[妊娠] 3G2P(2年前に流産)
[アレルギー] 子どもを生んでアレルギー性結膜炎や咳が半年間ひどくなったことがあるが半年で治った

[所見] バイタル異常なし、左下腹部に圧痛(+)、明らかな腫瘤ふれず、血液検査で炎症(-)、
脈 特に異常なし
舌 淡・苔白薄・地図状舌・舌下静脈怒張

[判断と処方]
婦人科受診も腹腔内に異常なく、オ血あるので桂枝茯苓丸処方
風邪後の咳が継続している。腹痛消失後整理することにした。

[経過]
2週目
「飲んだら痛みが少し下に下がった、と思ったら消えた」「口が渇く」
舌 やや黄色、舌下静脈怒張消失

→ 桂枝茯苓丸効かあったため中止。五虎湯開始

3週目
「5日間で夜の咳消えた。走るとまだ少し出る」

→五虎湯をもう10日間継続してみる

(感想)
明らかな内臓異常がなく、筋肉痛があるときは漢方薬や鍼灸は使いやすい

2008年08月11日

006 慢性咳漱・月経痛 40代女性

症例: 40代フィリピン女性
主訴: 慢性咳漱、月経痛
初診: 5月

病歴: 1年前から咳が止まらない。近医(病院も呼吸器科なし)、耳鼻科(診療所)、精神科(診療所)と受診し、鎮咳剤、去痰薬、平滑筋弛緩薬、抗ヒスタミン薬、SSRI、抗生剤処方されるも効果なし。月経による貧血のため鉄剤も内服している。胸部X線等問題ないと言われているが、詳しく検査してほしいと夫に付き添われに当院受診。

既往歴:
・半年前に甲状腺腫大を指摘され、3ヶ月前に摘出術施行(毎年健診受けているも指摘されたのははじめて)
・花粉症
内服薬: アストマリ、ブルフェン、レスプレン、アドエア、パキシル、フェロミア、ゼスラン

他症状:
・痰が絡まってつらい
・咳き込みすぎて吐くこともある
・寒さ苦手、とても冷える
・雨の日が苦手、痰が増えて頭痛もでてくる
・排便は毎日ある、食欲は安定
・卵、鳥を食べると症状悪化する

生活:
・職業 製造工場職員(粉塵あり)

所見:
・血液 肝逸脱酵素軽度上昇、IgE 300(花粉症の時期)、甲状腺機能異常なし
・呼吸機能 特に異常なし
・体重 十年前から7kg増えて、BMI 30

・舌 細長、青、歯痕(++)、舌下静脈怒張(+)
・胸 異常音なし
・腹 左胸脇苦満(+)、臍上・左右下圧痛(+)

処方と経過:
・はじめは咳が強いことから神秘湯7.5g3Xを処方してみた。
・が、2週間後「喉が痒くてたまらなくなり痰もなかなか出なくて吐いた」「薬が合わないのかなとやめてみたらよくなった」とのこと。胆気うっ滞??と考え、半夏厚朴湯7.5g3Xに変更。

・1ヶ月後、「咳は出なくなりました」とのこと。「卵や鳥を食べるとまだ吐いちゃう」「気持ちの薬をやめたら咳がでてきた」
「子宮筋腫がつらくて。生理が半月は続く。出血がひどくて貧血になるから鉄剤を飲んでいる」「何かしてもらえたら…」と新たに訴えあり。腹部所見で胸脇苦満消失、臍左下の圧痛のみ残存。舌下静脈(++)。オ血と判断。子宮筋腫縮小効果のevidenceある桂枝茯苓丸7.5g処方、半夏厚朴湯5gに減量。

・2ヶ月半後、「このあいだは生理が3週間続いていたけれど、飲み始めた次の日から生理楽になった」「不安の薬はのまないようにした。でも咳は出ない」

・3ヶ月半後、「新しい薬になって、朝おきにくい…」「生理があるとき、おなかの左下が2日間くらい痛い」 体力が落ちていて、血払う桂枝茯苓丸では強すぎる、補う効果もある当帰芍薬散7.5gに変更。

・4ヶ月後、「卵、鶏肉食べてもアレルギーあまりでなくなった」「生理の痛み我慢できるようになった」「前頭部が思くておすと気持ちいい、左後頭部が痛い」「もう他の病院の薬は鉄剤しかのんでいない」「朝目覚まし時計使わなくても起きれるくらい元気になった」
左上半身にゆがみがたまっていたので、TE3(左手5指近くの甲)、BL6(左頭頂、ここのみ置鍼)、TE16・GB21(首・肩)、PC3(肘内側)、LI4(1・2指の間)に取穴  (注: WHOの表記方法に従って記載。日本人にはあまり知られていないが、アメリカなどでは針はよく研究されている)
「気持ちいい」とのこと。頭痛軽減した様子。薬が多い可能性があるが、次回までは今の半夏厚朴湯・当帰芍薬散を継続することとした。

・4ヶ月半
「調子いい」
「咳、たまにでるけど前みたいに喉痒くない。出るときは鼻も痒くて鼻水でちゃう」
「生理。いつもなるまえ、両脇がぱんぱんになる。今そんなかんじ」
「2週前からぐっすり眠れない感じ」
「いつも左手ぱんぱんだったけれど、鍼をやってからそれなくなった」

脈 やや沈、虚、細
舌 歯痕(++)、オ血(-)、淡白色
腹 臍左上部〜臍左横 圧痛あり、腹力(+++)

薬続行

・6ヶ月目
「2週くらい前からまた喉がかゆくなってきちゃった」
「生理、前は2週間はつづいたけれど、今は1週間で終わる。前は塊があったのが、今はサラサラでたくさん出る。はじめは赤、最後は黒。生理のあとは自分でも貧血って気がする。目も手も白い」「前は生理前左下が痛かったのが、右下が痛くなるようになった」
「子宮筋腫、病院で検査したら、前は丸かったのが、今は長く大きくなったっていわれた」

脈 やや虚
腹 臍下部に圧痛(+)
舌 やや淡色、歯痕(++)、オ血(-)

半夏厚朴湯を2包→3包に再度増量

・7ヶ月目
「薬もどしたら、喉良くなった。痰でないし痒くない」
「生理、いつも胸がパンパンになるからなる前に分かるんだけれど、それが分からなくなってきた」
「1週間くらい頭がすごく痛い」「1ヶ月前から辛くなってきた。冷たくなっている感じ。ボーっとする」「頭を前に傾けると鼻に水が入る感じ」
「右肩が辛い」

頭の皮膚が全体にむくみ著明。頭頂やや後方のみへこみあり。圧痛あり。

左心包系〜頭頂まで鍼施行
状態改善

薬続行
副作用はしばらく鍼で調整していく


(感想)
・まだまだ漢方になれていなかったころに右往左往してしまった症例。いまだったらもっとまっすぐゴールにつけるけれど…。
・「喉の違和感」「甲状腺機能異常」に半夏厚朴湯、を実感。喉の異常にいいのなら、橋本病とかにはどうなのか? 年齢や性別を考えると、効きそうな人が多そう
・漢方薬でおさまってきたせきも、SSRIをやめると咳が出る、というのは、こころとからだが繋がっているということで、興味深かった
・神秘湯は症状悪化させることもあるとの報告あるが、本症例もそうだった。気をつける必要あり