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2010年06月28日

049 腹痛、食欲不振 11歳男性

[症例] 11歳男性
[主訴] 腹痛、食欲不振
[初診] 5月
[現病歴] 5月末、腹痛・嘔気・食欲不振が急に出現、 小児科受診するも明らかな異常所見なくプロバイオティクス・ナウゼリンで様子見るも改善せず。入院し精査加療を行うも異常所見なし。心理的影響もなかった。退院後も腹痛・食欲不振継続するため小児科外来受診した。
[他症状] なし(普通便)
[生活歴] 野球チームでピッチャーをしている
[既往歴] アトピー性皮膚炎(小学生までに治癒)、伝染性膿痂疹(1歳)、胃腸炎(9歳 入院加療)

[現症] 体重27.3 kg, 身長 141 cm
腹部 腸鳴 やや亢進、
[検査] 血液検査・腹部X線・腹部エコー・上部消化管カメラ 異常なし
[漢方所見]
(望診) 元気、やや顔色不良、
(腹診) 上腹部冷感軽度・圧痛あり、腹直筋目立つ、大動脈拍動軽度触知

[判断と処方]
消化管の動きが活性化しすぎて腹痛となっているのか? 消化器のけいれんをおさえればよさそう。
桂枝加芍薬湯 5g分2処方

[経過]
●2日後
おなかまだ痛い。何も変わらない。「まずい」
粉末飴加えた小建中湯 10g分2に変更

●1週間後
「あの薬のみはじめたらたべれるようになりました」
腹痛消失。

母と相談し、しばらくつづけることにした。

(感想)
消化器の痙攣をおさえるだけなら桂枝加芍薬湯のほうがいいかと感じたのだが、小建中湯のほうがよく効いた印象。桂枝加芍薬湯の効果がちょうどそのころ出てきたのかもしれないが。
いずれにせよ、小児は小建中湯のほうがやはりよさそう

2010年01月21日

037 左手の痺れ・嘔吐 57歳男性

[症例] 57歳男性
[主訴] 左手の痺れ
[初診] 1月
[現病歴] 1ヶ月前から左手がしびれ、動きが少し鈍い気がする(「ドーン」という感じ)。「親が外科で治療していたら内科の病気だったことがあり、一度きちんとみてほしくてきた」
[他症状] 『2年くらい毎朝、仕事前に吐いている。吐くとすっきりする。休日は吐かない』、前から手に汗をかきやすい(兄もそう)、1ヶ月前から左まぶたが浮腫む(自分では気にしていない)、右足底がびりびりすることがしばしばあり。
[生活歴] タバコ(-)、アルコール ビール350CC
[既往歴] 腰痛症(20歳ごろ、4ヶ月入院治療、手術はしていない)、健康診断受けていない
[家族歴] 親 ALS・脳梗塞、姉 心臓病で37歳で死亡
[アレルギー] 花粉症、ホコリに弱い
[その他] 食欲良好、尿 夜1回起きる(3時ごろ)、便 毎日(やわらかめ)、睡眠 心配事あると朝まで眠れないことがある、野菜は好きではない、甘いもの好き、

[現症] 体重・身長 中肉中背、一般状態良好
[検査] 胸部X線・頭部CT・採血・ABI 異常なし
[漢方所見]
(望診) 異常なし、抑うつなし
(舌診)舌質 青色、腫大、舌下静脈 うっ血(+)
(脈診) 実
(腹診) 充実

[判断と処方]
肉体的な異常見えず。精神的に過敏な印象。
抑肝散で経過をみることにする。

[経過]
●2週間
「毎日はいていたのが、この2週間で2回しか吐いていない!」
「左手と右足の冷感はそのまま」

手・顔に汗多い
やはり実証・多汗症

抑肝散継続

●1ヶ月半
「手足変わらず。あげるのは楽になった」
「便出さないと頭痛くなるが、出れば調子いい。夜はぐっすり眠れないときもある」

脈 腎虚
舌 静脈うっ血、やや腫大
腹 下腹部が虚脱

便秘と精神症状を目標に柴胡加竜骨牡蛎湯に変更

●2ヶ月半
「こないだの薬飲んだら食欲がなくなって便も下る感じした」半分にしてもだめで中止しちゃった。嘔吐もまたでてきた。前の薬がよかった気がする

抑肝散 再導入

●3ヶ月半
嘔吐はとまった。夜右足がつる。手足の汗は変わらない。
腸弱い。小さい時はよく下痢をしていた。

本治目的に小建中湯を加える

●5ヵ月
症状続いている

小建中湯 中止

整理のための 抑肝散 に加えて、消化器から元気を補う 補中益気湯 投与開始。芍薬甘草湯 こむら返り時内服

●6ヶ月
嘔吐ほとんどなくなった
手の汗減ってきた
こむら返りは 薬を飲むとぱっとひく

●8ヶ月
「だいぶよくなりました。2ヶ月間一度も嘔吐なし」 補中益気湯は全部飲むと便柔らかくなるので半分にしている

状態良好。
2週間追加処方し、徐々に減らしていただくことにした。

(感想)
『毎日仕事前に吐く』という特徴的な症状あるのにそれを主訴とせず受診されたところ,ついでに治った症例.そういった症状あってもあまり気にしないひとたちは,やっぱり市中にいるのだということを再認識.あと,嘔吐が抑肝散でひいていったのもそれまでの自分の経験ではなく,勉強になった

2008年12月07日

023 腹痛 72歳女性

[症例] 72歳女性
[主訴] 腹痛
[初診] 11月
[現病歴] 7年前からときどき腹痛あり当院受診していた。ストレスで増強。狭心症の疑いにて性差入院もあった。最近は腹痛発作少なくなっていた。1週前から心窩部痛あり。救急外来、内科外来受診しH2ブロッカー処方されるも軽減せず。徐々に像悪。傾向摂取量も減っていたため栄養剤を内服していた。救急外来で投与された抗コリン薬効果あり。治療目的に当科再受診。
[他] 切られるような持続痛、放散痛(-)、臥位で増強、うつ伏せで楽になる
 便は昔からゆるい、関節痛(-)、口に唾がたまることはない、足軽度の冷え性、水は多めにのむようにしている、
[既往歴] 喘息
[生活歴] ストレス多、夫が脳梗塞
[所見] 痩せ型
舌 白苔が中央剥がれている(「昔から」とのこと)、胖、歯痕(-)、舌下静脈軽度
腹 心窩部に圧痛(+)、大動脈拍動強、全体に軽度の圧痛

[判断と処方]
ストレスからの過敏性腸症候群
桂枝加芍薬湯+抗コリン薬

[経過]
●1週目
「漢方薬は飲んだ後スッとする。続けたい」
痛み変わらない、抗コリン薬2回飲まないとダメ
皮膚に湿疹が出る、痛みが強いときに出る傾向がある。背部と手に出る。顔・腹・足にはでない(受診時みられず)
食べれないから栄養剤がほしい
ドリンク剤のむと、飛んで歩けるくらい元気になる。4時間くらい

●2週目
だんだんいい方向。しぶり腹もあったが落ち着いてきた
たべれるのはおかゆ少しと栄養剤だけ
湿疹はだいぶ減った

脈 細
舌 紅・中央の苔なし(境界不明瞭)

消化管の痙攣抑えるだけでなく、消化管の基礎状態を整えたほうがよさそう
飴を加えた小建中湯に変更

●3週目
おかゆたべれました!! 何も痛くない! 2日前から何かすっきりしてきたんです。食べる量も種類もだんだん増えてきた
「2袋ごはんの前に飲むと、げっぷもおならもよく出るんです。そのげっぷが気持ちいいの。前はそれがでなくてつまっちゃってくるしかった…

脈 右>左  寸が弱い、関・尺 虚細
舌 やや赤い、厚いが歯痕(-)
腹 上腹部動悸(+)、腹力弱

●4週目
すごく調子いいです! 痛みなくごはんたべています。ご飯が食べれるってほんとうに素敵ですね!!

脈 左の関が弱い。寸が強くなってきている

抗コリン薬を減らしつつ回復を待つ。
小建中湯の減量をそろそろ考えていく


(感想)
・15人くらいの医師を受診し、時に循環器精査されるほどの腹痛続いていたが、漢方薬ですっきりなおった。時々このように、西洋医学では気持ちの問題と放置せざるを得なかった症状を、患者さんが感動するくらいすっきり治すことが漢方薬である。西洋医学のみで治療できることがたいせつだ、といわれるけれど、こういうことがあるから漢方薬をつい使ってしまう。実際、西洋医学のみでは治らない病気はほんとうは多いのだし…