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2010年05月15日

047 下半身脱力 79歳女性

[症例] 79歳女性
[主訴] 歩けなくなった
[初診] 7月
[現病歴] 定年になってから体がおかしくなった。食べるものがまずくなった。
今年に入ってから足が前に出なくなった。
[他症状] 頻尿(夜4〜5回おきる)、歯は下5本残っている、足冷える
[既往歴] 高血圧、心房細動、気管支喘息、左顔面神経麻痺、白内障、緑内障、
毎年の人間ドッグでは異常指摘されず
[内服薬] ワーファリン 4mg、アムロジン 5mg、フルタイド100 1日2回、モーラ
ステープ

[現症] 左顔面痙攣軽度(+)、胸部 不整脈あり、雑音なし、四肢・左ひざク
リック(+)、むくみなし
[検査] 血液異常なし
[漢方所見]
(望診)抑うつ的
(舌診)苔 黄・粗、舌下静脈(+)
(脈診)右 浮・緊、左 沈・弱
(腹診) 腹力とても弱い、満、臍左下部に違和感あり

[判断と処方]
第一印象が抑うつ傾向。全身倦怠感、食欲不振、気管支喘息あるため、消化器・
肺を治療し気を補う補中益気湯5.0g開始。

[経過]
●10日目
「体がしっかりしてきた。漢方薬利く気がする。前は2軒となりまで歩くのがやっ
とだったけれど少し歩けるようになった」
「溶かして飲むとまずい。粉で飲んでいる」

補中益気湯継続
 
●1ヵ月
「しんので歩けない。体の奥がしんのいかんじ」

八味地黄丸4.0g分2をメインに変更。胃腸が弱く副作用でやすいと思われたので、
また喘息もあるので補中益気湯 2.5g分1で継続。

●1ヵ月半
「えらいいいよ。すっとたったり歩いたりできるようになった」「近すぎたトイ
レが良くなってきた。眠れる時間も増えた」

●5ヶ月目
「1km離れたところもがんがん歩ける」「時々むくむ」
八味地黄丸 を 牛車腎気丸 に強める

●7ヶ月目
「足のむくみ、えらいいいような気がする。まだしんの」「ハリ、週1回いって
いるよ。いくととてもよくなる」

●9ヶ月目
「しんのさ、まだある。何かやるとどきどきする。薬やめるってできるかな?」
治療できる範囲は治療できたか。薬やめても症状でないか、1ヶ月後に様子見

(感想)
高齢者の下半身脱力。腎虚とは思ったが、抑うつ傾向と消化器の弱さが目立ち、
消化器と肺の治療を先行させた。結局補腎で下半身の脱力軽減した。しかし倦怠
感は継続。高齢であり仕方のないことだったのか、他の薬剤を使えばなおったの
か。補中益気湯 が当初より口に合わなかったのは気になっていた。検討してお
く。

2010年04月28日

046 下半身に元気がない 73歳男性

[症例] 73歳男性
[主訴] 下半身脱力
[初診] 12月
[現病歴] 4ヶ月前から腰痛・右足痛あり、近医整形受診。X線も大きな異常なく、ブロックを5回ほどした。1週間持つが良くはならなかった。心配でMRIとりたくて受診。
[他症状] 下半身に力が入らず、散歩時もガードレールを伝い歩き必要。すっと立てない。しゃがんで仕事できず箱を椅子に使わざるを得なかった。つま先がじりじりしびれている。冷え(-)。
[生活歴] タバコ 20本/日
[既往歴] 帯状疱疹、胃潰瘍
[家族歴] 特記すべきこと無し

[現症] 肥満(++)
[検査] 血圧 120/72、HbA1c 8.5%、ABI 異常なし、心電図 異常なし、胸部X線 心拡大なし、腰部MRI すべり症(+)

[漢方所見]
(望診) 体格良く元気そう

[判断と処方]
[経過]
糖尿病あり。しかし、下半身の脱力はそれだけでは説明できない。年齢の影響考え、牛車腎気丸証と判断。

生活習慣の改善をまず調整。
同時に、牛車腎気丸内服開始。

・1ヶ月後
「あの薬のんだら少し足に力が入るようになった。両足の指先のぴりぴりがえらいよくなった気がする」

・2ヶ月後
「だいぶ歩けるようになった。散歩でガードレール必要なくなった。簡単に立てるようになった。しゃがんで仕事できる。」

栄養調整努力する意志がとても強い方なので、血糖も徐々に調整中。


(感想)
やはり、西洋医学だけでも、東洋医学だけでも患者さんをとらえきること、治療しきることはできない。

2009年06月25日

036 変形性膝関節症 74歳女性

[症例] 74歳女性
[主訴] こむら返り,変形性膝関節症
[初診] 4月
[現病歴] 左膝変形性関節症あり,鍼灸院受診,2回で痛み取れていた.こむら返りあり,当科紹介受診した.
[他症状] 腰から下の冷え性あり(第三子産んだときに出血多量だった.以後冷え性あり.板の上など寒くて座れない.夏でもカイロを使っている)
発汗少ない(夏も),肥満(+),足むくむこと少ない,水分摂取多い,夜トイレに1回おきる
[既往歴] 高血圧,不眠症,頚椎捻挫,左腋粉瘤,足白癬,
「主人の7回忌が終わってからヨロヨロになっちゃって...」

[現症] 肥満体型
 両手指DIP変形(++)(へバーデン結節),左膝クリック(+),ほか身体診察上明らかな異常なし

[漢方所見]
(望診)肥満体型,動きに異常なし
(舌診)白苔・乾燥傾向、裂紋(+++)、舌下静脈怒張(++)
(脈診)浮,細
(腹診)満,全体的に圧痛(+),気海にカイロをはっている

[判断と処方]
西洋医学的には変形性関節症,冷え性と診断.
東洋医学的には気虚を基礎とした,湿邪と腎陽虚.
防巳黄耆湯と牛車腎気丸を処方.

[経過]
・2週間後
「おしっこの出いい」「からだが軽くなった気がする」「両足まだ痛い」

補気良好,経過良好.

・2ヵ月後
「調子はえらいよくなった.足あったかい.カイロ要らなくなった」「肩こりなくなってきた」「まだどうしても左膝がつれる」
舌 裂紋(+++, 「せんべいとかしみる」),
腹 圧痛消失

経過良好.舌所見の改善を目標に,今後加療継続予定.


(感想)
・鍼灸との併用は,副作用の出をおさえる印象ある.経過がいい.
・漢方は補法が得意と感じる

2009年03月18日

029 下腿浮腫 85歳男性

[症例] 85歳男性
[主訴] 下腿浮腫
[初診] 7月
[現病歴] 高カルシウム血症、高マグネシウム血症からの全身倦怠感、呼吸筋麻痺にて入院となった患者様。5年ほど前より下腿浮腫あり、慢性腎不全の診断で利尿剤調整されるも改善せず様子を見ていた。
[他症状] 下肢冷感(夏でもソックスが気持ちいいとのこと)
[既往歴] 喉頭癌、心筋梗塞、甲状腺腫瘍、脳梗塞(明らかな麻痺なし)、腹部大動脈瘤、高血圧、慢性腎不全
[生活歴] 喉頭癌手術までタバコ 40本/日 35年
[所見] 体表エコーにて右膝関節静脈2本中1本完全閉塞、両側膝窩血管石灰化

[判断と処方]
下肢冷感、下腿浮腫、慢性腎不全、コントロール不良の高血圧、難聴、視力低下、高齢等から腎陽虚と診断し、牛車腎気丸内服開始。

[経過]
その後主治医の下でフォローされ、当院を3ヵ月後に受診したときには下腿浮腫消失していた。

(感想)
利尿剤でコントロール不能だった下腿浮腫が牛車腎気丸にて改善した症例。
浮腫に対し、一般的な西洋薬では腎の仕事量を増加させ血管から水分を引くことによって、third spaceから水分をひく。つまり、third spaceから血管内へ直接水分を引く薬は存在しない。それに対し、漢方薬ではthird spaceから血管内に水分をひく薬が複数存在する。本症例はそのうちの牛車腎気丸を使用し著効した。敗血症の茯苓四逆湯など、third spaceの水分コントロール目的の漢方薬の使用はもっと見直される必要があるのかもしれない。

2008年08月19日

012 眠くなる 70代男性

症例: 70代男性
主訴: 眠くなる

現病歴: 1ヶ月くらい前からいつも眠い。集中しにくくて疲れやすい。浅目が醒めると口の中が乾いている。立ち上がるときふらつくことがある。

他症状:
・9ヶ月前に脳MRIとるも異常所見なし
・風邪をひきやすい
・先天性股関節脱臼の左足が冷えて困る
・毎年沖縄に行くと体調よくなるのに、今年はよくならない

・夜中尿に起きることはない
・手は冷えない

既往歴:
先天性股関節脱臼、前立腺肥大(5年前から飲んでいるアビショットで残尿感なくなった)、胆石症(20年前胆嚢摘出術施行)、健康診断毎年受けているが異常なし
内服歴:
メリスロン、ノイロビタン、サイモチン、メイラックス、アビショット

解釈モデル 「疲れすぎているのではないか」

所見:
・腹 臍下に脱力著明、左下腹部に違和感
・筋肉質、脂肪少

処方と経過:
腹診と冷えと耳の所見から腎陽虚と判断。牛車腎気丸7.5g処方

(1ヵ月半後)
・今の薬とてもいい気がする。他の薬を全部やめたけれど、前立腺もめまいもよくなった気がする。耳鳴りもでなくなった
・股関節の古傷は痛い

→牛車腎気丸では古傷には対応できない。腎を補いつつオ血を整理する当帰芍薬散を試してみることとした。

(2ヵ月後)
・とてもよく効いたから今日で最後にしようと思っています。新しいのじゃなくて前の薬がよかった気がする
→念のため、追加で3ヶ月出して加療終了

(感想)
・冷えは西洋医学では捕らえることができないので無視されているが、その異常を持っている患者は非常に多い。それをtargetにすると状態を改善できる人が実はかなりいる。西洋には「肩こり」という概念がないせいで線維筋痛症が出現しやすい?のに似ている気がする。

漢方薬は、ある程度治療すると、西洋医学で治療不能な疾患が、数ヶ月できちんと治る!

2008年08月01日

005 動悸・生理痛 40代女性

症例: 40代女性
主訴: 動悸

病歴: 8年ほど前から階段をのぼったときや仕事をしているときなどに動悸のようなものを感じるときがあった。血縁に心臓病の人間もいて心配になった。発作時、息苦しさなし。不整脈なし。頭痛なし。脈が速くなる感覚もなし。「豚が駆け上るような感じ」
また、左頚部から側頭部にかけて疼痛、リンパ節腫脹あり。初診日に皮膚科も受診した

既往歴:
・アトピー 15歳までステロイドを大量に使用していた
・片頭痛
・流産(3経妊2経産)
・毎年健康診断を受けているが異常を指摘されたことはない

他症状:
・30後半の流産から足の浮腫強くなった
・両足の親趾の内側1cmくらい感覚がない
・更年期障害はないと婦人科で診断された
・以前鍼灸を受けたとき、次の日まで吐き気がひどかった
・白髪家系ではないのに40歳で白髪になった
・冷えひどい。夏も長袖を着ている。冷えるときは、腰→足→背→全身と広がっていく。
・時々耳鳴りがある
・ご飯をたべると眠くなる
・生理痛強い。暗色の塊でる。頭も痛い

所見:
・やや水がたまった体型
・左頚部にリンパ節腫脹
・脈 弱、触れるときびりっとした感覚あり
・心窩部圧痛あり、左鼠径部圧痛あり
・両母指球筋やや腫脹、冷感(+)、紫色
・足趾すべて圧痛あり、両第一趾内側は感覚なく凹み気味

判断:
・流産をきっかけに、浮腫・白髪など悪化していることから腎陽虚が起点となっている可能性が高い
・しかしそもそもに脾虚があるか?
・腎を補おう
・しかしそもそも邪がつまっている。漢方薬より鍼灸の方がいい適応か

→牛車腎気丸7.5g3X処方、鍼灸紹介

その後の経過:
(10日後)
「すごく楽になりました!!」「鍼をうったらすっと楽になったんです」
「この薬を飲むと30〜40分くらいだるくなるんです…」

・脈 右<左 も全体的に強くなった
・舌 やや紫、唇の紫色については消失
・腹部の圧痛変わらず
・リンパ節腫脹ほぼ消失

→やはり牛車腎気丸の地黄の、消化器・脾臓への副作用強いか…。当帰芍薬散に変更。漢方より鍼灸がよく効いている感じ。
鍼灸を見学に行く。消化器系の経絡を使っている。
鍼灸のあとは尿がよく出て体が楽になるとのこと。しかし、尿がよく出る期間も数日しか続かず、また体調が悪くなるとのこと。

1ヵ月後の受診。
・相変わらず頭痛あるが薬使わなくても我慢できる程度。アトピーが全身に出ることがなくなった。よく眠れる
・汗がでるようになった。以前は夏でもカイロが手放せなかったのに。部下から「7年一緒に仕事をしていてはじめて汗を見ました!」と驚かれた
・鍼やお灸をすると次の日だるい
・足はまだむくむ
・でも、これだけ体調が楽になることは今までなかった
・薬を飲み忘れると尿がへる

(所見)
・右胸脇苦満と右下腹部圧痛、と腹診大きく変化
・T-Chol 247あったのに、2週間で216に減少

→当帰芍薬散よくきいている。しかし、水毒をより早くさばいたら楽になるか?
 五苓散を追加

2ヵ月半後
「高校生の頃から生理痛がひどかった。黒い塊がでた。何をやってもだめだったのが、嘘みたいに楽になった!! 塊もさらさらになった!!」「生理のときの頭痛はまだあるけれど、前みたいに吐き気がでることなくなった」
「花粉症がひどくて…。春と秋、あるんです。何年かに一度、とてもひどくなる」
「薬を飲むと尿が出ちゃうから会議の前に飲めない」
腹部正中と下腹部の圧痛残存

→五苓散効果ないみたい。当帰芍薬散のみにもどした

(感想)
・40才で生理痛と分かれられるのも…。もっと早く使える医者と出会っていたらと感じた
・やっぱり漢方エキス剤のみでは微妙な調整が難しい…。鍼灸と組めるとらく
・鍼灸はよくも悪くも即効性があるので評価に使いやすい
・急速なコレステロールの変化が理解しきれない。中年女性の高脂血症はもしかすると違う方面からコントロールすると早い可能性あるか??

2008年07月31日

004 術後に物忘れが強くなった 70代男性

症例: 70代男性
主症状: 物忘れ

病歴: 2ヶ月前に胃癌EMRを施行(7日間入院)。退院後物忘れが出現したことに家族気づくが、本人に物忘れの自覚はない。認知症の進行を薬でとめたい娘につれられ精査のために総合外来を受診した。本人は診療に対して拒否的だった。

既往歴: 26年前より高血圧内服加療中、3年前に右腎癌で腎臓摘出(その後右鼠径部がしばしば痛む)、幼少時虫垂炎

症状:
・尿は、3年前から夜間2時間おきに起きてするようになった
・足がしびれる。特に手術した頃は左足がしびれていた。膝に力は以前から入りにくい
・以前から腰痛あり
・足が冷える
・耳は3年前から遠くなった
・趣味は野菜作りなど楽しめている

所見:
長谷川式 21/30点
舌 やや紫、舌苔少量、舌下瘀血(+)、口唇紫

判断:
術後・入院後の腎陽虚の悪化。
八味地黄丸を少なめに5g2X開始。

その後の経過:
1ヵ月後、娘は「少しは元気になりました」「物忘れはあまりよくなってはいませんが」
本人表情柔らか。難聴改善傾向。
2ヵ月後、再度娘とともに来院。表情明るい。認知症軽減。
3ヵ月後、妻のみとともに来院。笑顔あり。認知症明らかに消失。難聴強度。「足がいてえよ」「食欲ある」
腎陽虚改善傾向も不十分と判断。牛車腎気丸7.5g3Xに強めた。
4ヵ月後にフォロー予定。ついでにニューモバックスも投与を予定。

(感想)
入院後、術後の患者さんをみているといつも、腎陽虚の悪化を感じていた。補えばきっとよくなる、といつも感じていた。やっぱりその予想はよかったのだと手ごたえを感じた。

そのうち、せん妄患者さんに六味丸を使ってみたい…。よくなると思うのだけれど…。