« 2010年01月 | メイン | 2010年04月 »

2010年02月04日

044 全身が痛い・動けない 85歳女性

[症例] 85歳女性
[主訴] 肩と腰と足が痛い・動けない
[初診] 4月
[現病歴] 右化膿性関節炎後ADL低下したため、2年半前在宅診療導入された。当初より両肩・足の疼痛認めたためしばしばトリガーポイントブロック施行されるも疼痛改善は3日間のみで状態横ばいで経過をみていた。半年前、急性腰痛症発症、その後動けなくなり寝たきりとなっていた。 筆者初診日、朝から1年前に骨折した右第5指が痛いとの訴えあった。
[既往歴] 左腸骨深部静脈血栓症、高血圧、高脂血症、糖尿病、偽痛風、右化膿性関節炎(関節注射が原因、手術で治癒)、うつ病、膀胱癌(TUR-BT手術後・再発に対して放射線治療後)
[症状] 両肩・左下腿・腰痛あり、特に左肩が一番痛い、寒いと痛みやすい、PIP痛みやすい、朝こわばる、DIP痛くならない、腰から下の冷え性、若いころ生理痛に悩んだほう、

[現症] 肥満体型、バイタル異常なし
 収縮期雑音あり、
 PIP 軽度の変形が多数指にあり、右5指PIPに炎症所見あり
 
[漢方所見]
(望診) 中心性肥満あり
(舌診) 舌大きめ、苔 粗・黄色傾向、舌下静脈 怒張
(脈診) 弱
(腹診) 明らかな異常所見なし、下腹部虚脱なし

[判断と処方]
血流障害ある。筋力低下は血虚を示している可能性あるか。
左腕→左肩→左足→左腰→左足 と小腸・心包経、胆・肝経 について針治療施行。
東洋医学的血流障害が疼痛の原因になっている可能性考え、疎経活血湯(53)処方。

[経過]
針治療により疼痛軽減。右手第5指の疼痛は治療後すぐに消失。

疎経活血湯は飲みにくい薬であったが1ヶ月内服。しかし疼痛軽快せず皮疹も出現したため中止。以後鍼治療を1〜2回/月の筆者の訪問時に施行。局所麻酔によるトリガーポイントブロックは3日しか効かないが、針治療の効果は10日くらいもつとのこと。徐々に疼痛軽減し、10月〜12月の施設への短期入所後はADL上昇し歩行可能になり、また治療の頻度も1回/月に下げた。


(感想)
ペインは針治療が速い。
振り返ると、うつ病との診断名が前医によりつけられていたが、神経症のほうが近い印象。漢方薬は半夏厚朴湯が効いたかもしれない。

2010年02月02日

043 のどがいがらっぽい・左頚部腫脹 43歳男性

[症例] 44歳男性
[主訴] のどがいがらっぽい、左頚部腫脹
[初診] 5月
[現病歴] 3年前からのどがいがらっぽい。ものを飲み込むときにひっかかる。1年位前から左頚部が腫れている。首を前傾すると、喉の前が後ろにあたっている気がする。耳鼻科、消化器科受診し内視鏡行うも異常なし。GERDではないか、とPPI・六君子湯処方されるも改善なく中断。「甲状腺の問題じゃないかと心配」で総合外来受診。
[他症状] 腰椎椎間板ヘルニアを8年前手術したが、昨年から左足のしびれあり(「立っていると刺されるような感じ」)。MRI施行も悪化はないと言われている。姿勢によっては足の甲も痛くなる。5分歩くとつらい。

[現症] 中肉中背、左頚部軽度腫脹も明らかな腫瘤触れず、
[検査] 頚部エコー も異常認めず

[漢方所見]
(望診) 問診表にびっしりと几帳面に書かれている。
(舌診) 特に異常なし
(脈診) 細、滑
(腹診) 上腹部が硬く軽度圧痛あり、左上腹部にしこりあり

[判断と処方]
咽喉頭神経症 疑い。半夏厚朴湯効きそう。問診表にびっしりと書いている点も半夏厚朴湯を示唆する。
⇒半夏厚朴湯を処方。

[経過]
●3週目
「症状改善しました」
継続することにする

●2ヶ月目
「寝汗をかく」
寝汗からは帰脾湯効果ありそうな気がするが様子見とした。

●4ヶ月目
仕事に加えて子供の関係で、夜21時にねて、朝1時に起きる生活を続けていると話してくれる
処方継続

●7ヶ月目
「それ以上変わらずにいる」
手足が冷たくなることはないと。
手の爪が、匙状でありかつ縦筋が目立つことに気づく。
また、食後眠くなるとのこと。

脾血虚がある印象。
寝汗も含めると、帰脾湯効果ありそう。ストレス強いのでその整理も目的に、加味帰脾湯を加えることにする。
半夏厚朴湯を3包→2包へ。加味帰脾湯1包追加

●9ヶ月目
「薬変えてからだいぶ楽になりました。今の症状は初めのころの3割くらいです。まだいがらっぽさはあるけれど、詰まった感じはなくなった」
今の処方をしばらくつづけることにする。いずれ加味帰脾湯の増量も検討。


(感想)
咽喉頭神経症、と考えて半夏厚朴湯をつかったがそれのみではよくならなかった症例。振り返ってみれば、半夏厚朴湯のみで治る患者さんのようなストレスの強さや張り詰めた感じは弱く、ストレスで弱っている印象を受けていた。そのような患者はやはり加味帰脾湯を加えるべき。