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2011年11月11日

056 めまい 29歳女性

[症例] 29歳女性
[主訴] めまい
[東洋医学治療開始日] 6月
[現病歴] 月に1〜2回,天気の悪い日に体辛くて起き上がれなくなる症状があった。転職,異動で症状悪化した。出勤できなくなるため,3ヶ月前に婦人科を受診し,桂枝茯苓丸加薏苡仁,半夏厚朴湯,当帰芍薬散,抑肝散加陳皮半夏を処方されためした。桂枝茯苓丸加薏苡仁はにきびによく効いた。半夏厚朴湯で気分は良くなった。当帰芍薬散では腹痛出現した。受診時は半夏厚朴湯を飲んでいた。しかし,起き上がれなくなる症状継続しており,異なる治療を希望して,当院漢方外来受診した。

[他症状] 顎にニキビあり
月経周期30日,出血期間7日,出血量多〜普通
生理2日前から気分が落ち込みやすくなっていらいらする,眠くなる,便秘傾向でてくる,月経痛はたまにすごく痛いが普段はそれほどでもない。社会人になって悪化した。生理始まれば楽になる
排便1日1回・硬
お腹が弱くてすぐ消化器症状出る。気持ち悪くなって食欲なくなる。甘いものは食べたくなる。飲み会のあとお腹がちゃぷちゃぷする
[既往歴] なし
[内服] 半夏厚朴湯

[漢方所見]
体格:普通, 顔色:普通, 皮膚:湿潤
(舌診) 色:淡紅, 湿潤:湿潤, 大きさ:胖大, 苔:白薄, 歯痕:(+),舌下静脈怒張:(+),
(脈診) やや虚,やや遅
(腹診) 腹力:1/5,所見:振水音(+),上腹部・臍傍動悸(+),冷感(+),発汗(+)

[判断と処方]
生来の消化器の弱さが目立った。水毒で悪化していた。
半夏白朮天麻湯の条文(後述)に適合すると考え,クラシエ半夏白朮天麻湯7.5g処方した。
水毒の発作を抑えるために,ツムラ五苓散を頓服とした。

[経過]
その後,半夏厚朴湯内服を自己中断していた。
4週後の最新で,仕事を休まなくても良くなった,とのことだった。月経前も出勤できる。頓服の五苓散もたまに使用すると,尿がよく出て,雨の日に気持ち悪くなったり眠くなったりすることがなくなった。
その後も,軽度の起立性低血圧はしばしば起こるが,胃腸の調子は良くなり全身状態改善傾向にある。外来受診を継続している。

[考察]
半夏白朮天麻湯は胃腸が虚してめまいがあるものに使用する。原典は脾胃論で,「眼黒く頭旋り,悪心煩悶。気短促,上喘し力無くして言うを欲せず。心神顛倒し,兀兀(ごつごつ)やまず。目あえて開かず。風雲の中にあるがごとく,頭苦痛して裂くがごとく,身重くして山のごとし。四肢厥冷して安臥する事を得ず」とある。半夏,白朮・蒼朮,陳皮,茯苓,人参,生姜・乾姜と六君子湯の要素に,天麻(鎮痙鎮痛),麦芽(健胃・熱を除き気を増し中を調える),神麹(健胃・消化促進),黄耆(体表を補い堅きを緩め寒を除く),沢瀉(利尿・熱を去り燥きを潤す),黄柏(健胃・血熱を除き下痢を止め腹痛を治す)を加えたもの。平素より胃腸が虚弱で,胃内停水があり,外感や精神的ショックや不摂生などで胃内の水毒が動揺して上逆し,頭痛,めまい,嘔吐を発するものに用いる。本症例はこの原典の記載に適合したため使用したところ効果を認めた。また,併用していた五苓散も利水作用あり,本患者ではそれらの影響も存在したと考えられた。
(参考)「活用自在の処方解説」「漢方診療医典第6版」「新古方藥嚢」