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2012年11月26日

058 全身のしびれ感 47歳女性

[症例] 47歳女性
[主訴] 全身のしびれ感
[初診] 4月
[現病歴] 冬から手足のしびれ感・疼痛あり.整形外科,内科で精査するも異常なし.症状は月経前に強い.天気とは無関係.突然始まり自然と治る.めまいがでるときもある.
[生活歴] 喫煙(-),飲酒(-)
[既往歴] 自律神経失調症(38歳〜 スルピリド(ドグマチール)内服中)
[現症] 体重41kg・身長164cm
下肢 軽度の浮腫
[検査] 血液検査異常なし(甲状腺異常なし),頚部MRI異常なし
[漢方所見]
(舌診) 先端紅
(脈診) 細
(腹診) 肋骨角度狭小,臍上悸,臍右下圧痛あり

[判断と処方]
漢方的には動悸が目立つ
→桂枝加竜骨牡蛎湯 3包分3
むくみあり
→五苓散 3包分3

[経過]
●2週間後
「桂枝加竜骨牡蛎湯は効いていると思います.一時やめてみたら症状悪化,再開したら改善」
→継続
●7週間後
「頭はすっきりした感じ.動悸は毎日じゃなくなった」
→桂枝加竜骨牡蛎湯のみに変更
●3ヶ月目
「数週間前,飛行機に乗ったら緊急着陸してくれと叫びたくなるほど動悸がした.」
「腹部動悸は4月は常にあった,5月は小刻み,6月からは触ってもわからなくなった」
腹部動悸軽度に。
脈 弦,舌 先端紅
漢方的には熱が心にこもっている印象.
→清心蓮子飲 に変更
●4ヶ月目
「とてもよくなってきている.でも,1週間前内服中止してみたら,受診日朝から手足と顔にビリビリという感じが出現.清心蓮子飲をのんで,お腹の調子がいい.いつも夏になると下痢をしていたのが今年はでない.」「桂枝加竜骨牡蛎湯は元気になる薬だった」
舌 黄苔,先端紅
→朝昼 桂枝加竜骨牡蛎湯,夕 清心蓮子飲 に

(補足)
 桂枝加竜骨牡蛎湯は、西暦200年頃にかかれた傷寒論・金匱要略に記載された方剤。もともとは、「小腹弦急し、陰頭冷え、目眩し、髪落ち、失精、夢交する証」つまり、性的な衰弱に用いた薬である。現代では、気逆といって気の流れが下に向かわず上にのぼるようになる状態によく使用する。内容は、風邪薬の基本薬であり気の流れをととのえる桂枝湯に、気をしずめ気分を落ちるける牡蛎(カキの貝殻)と竜骨(古代の哺乳類の化石)を加えたもの。上腹部の動悸が目立つひとに効きやすい。
 五苓散も同じく傷寒論に記載された薬。水を調整する薬が4種類と、桂枝(シナモン)で構成された方剤。科学的には水チャネルであるアクアポリンに働くことが示されている。西洋薬では水分が多すぎるときは、利尿剤で血管内の水を除くことを通して、血管の外側から水を吸い出す、という作業をする。いわゆる、「利尿薬」である。けれど、それだけでは血管の外の水、つまりむくみ、はなかなか取れないことがある。五苓散を代表とする漢方薬の「利水剤」は、全身の細胞に働いてむくみをとる。利尿薬のように頻回にトイレにいく必要もなく体調も整う。
 清心蓮子飲は、1107年頃に中国で発行された和剤局方に記載された方剤。もともと胃腸が虚弱な人が抑うつと排尿障害を合併しているときに使用する。イライラしていて舌の先端が赤くなっているひとに効きやすい。

 漢方複数種飲むと、効果が不明瞭になるため本来は避けるべき。本症例は、一剤でなおせないかと迷いつつも、結局複数の薬を重ねてしまった。全身を同時に治せる1剤がなかったのか検討中.