2012年01月18日

057 ストレス 30歳男性

[症例] ストレス反応,30歳男性
[主訴] 不眠,肩こり
[初診] 7月
[現病歴] 1ヶ月前,暑くなり始めてから中途覚醒するようになった。合計6時間の睡眠中2回起きる。やや不調の精神状態と自覚している。いまひとつ気分がすっきりしない。同時期から肩こりが悪化傾向にある。漢方薬で治療できないかと考え受診した。
[生活歴] タバコ(-),酒(5回/週,ビール約1L),大学院生(ストレス反応について研究)
[既往歴] なし(暑気あたりの既往なし)
[家族歴] 父:高血圧・糖尿病,母:大動脈解離

[他症状] 食欲普通,中途覚醒(+),早朝覚醒(+),小便5〜6回/日,夜間尿(-),便1回/日・普通便, 疲れやすい,汗をかきやすい,寝汗(+),頭重(+),気分が憂鬱になる,いらいらする,水分をよく取る,足がむくむ,目が疲れる,目がかすむ,首・肩・背中・腰がこる,暑がり(熱証)

[現症] 体重60kg,身長170cm,血圧120/60mmHg,脈拍66/分,

[漢方所見]
(望診)普通
(舌診)淡紅,湿,やや大,薄白苔,歯痕あり,舌下静脈+-
(脈診)弦
(腹診)腹力4/5,心下部緊張,肋骨下緊張(+/++),腹直筋緊張(+/+),腹部動悸(++),
臍下圧痛(+/+), 鼠径部圧痛(+/+)

[判断と処方]
ストレスによる気うつ強い

[経過]
ストレスが強いと考え 四逆散 を処方した。むくみあるので頓用で 五苓散 を処方した。
10日後,「ストレスがすーっとおちた。よく眠れる。体の緊張取れた。肩こりへった。二日酔いなくなった」
その後も四逆散の定期内服がなくなるとストレスで体調不良になるため,内服を継続している。

(考察)
四逆散の原典は傷寒論,少陰病篇に「少陰病,その人或いは嗽し,或いは悸し,或いは小便不利し,或いは腹中痛み,或いは泄理下重の者は,四逆散之を主る」とある。裏熱のために正気が外に伸びることができなくなって,四肢の厥冷した状態を目標にするという意味である。ただし,この章は錯簡があるとされ,胸脇苦満と腹直筋の攣急という腹証によって用いることが良いとされる。やや実証に用いる柴胡剤である。柴胡・枳実・芍薬・甘草で構成される。甘草・芍薬の二味が合わさることで両脇を緩め,胸中心下を押し開く。ここに,胃腸を促進し腹中の滞った気を通じる枳実,半表半裏の熱を去る柴胡が加わっている。この方と小柴胡湯を合方し,人参と甘草を去り大黄を加えると大柴胡湯となる。芍薬甘草湯の加味方とも解釈できる。医中誌では,ストレス反応またはストレスを原因とした疾患に対する報告が多くある。本症例も,ストレスが根本的な原因と考えられたため四逆散を使用したところ効果を認めた。肩こりに対しては,ストレス除去に加え,芍薬甘草湯として筋緊張の軽減にも効果があったと考えられた。また,本例では水毒も体調不良を増悪させていると考えられたため五苓散頓用で利水をはかったことも,治療効果を強めたと考えられた。
参考:大塚敬節「臨床応用傷寒論解説」「漢方210処方生薬解説」「新古法薬嚢」

2011年11月11日

056 めまい 29歳女性

[症例] 29歳女性
[主訴] めまい
[東洋医学治療開始日] 6月
[現病歴] 月に1〜2回,天気の悪い日に体辛くて起き上がれなくなる症状があった。転職,異動で症状悪化した。出勤できなくなるため,3ヶ月前に婦人科を受診し,桂枝茯苓丸加薏苡仁,半夏厚朴湯,当帰芍薬散,抑肝散加陳皮半夏を処方されためした。桂枝茯苓丸加薏苡仁はにきびによく効いた。半夏厚朴湯で気分は良くなった。当帰芍薬散では腹痛出現した。受診時は半夏厚朴湯を飲んでいた。しかし,起き上がれなくなる症状継続しており,異なる治療を希望して,当院漢方外来受診した。

[他症状] 顎にニキビあり
月経周期30日,出血期間7日,出血量多〜普通
生理2日前から気分が落ち込みやすくなっていらいらする,眠くなる,便秘傾向でてくる,月経痛はたまにすごく痛いが普段はそれほどでもない。社会人になって悪化した。生理始まれば楽になる
排便1日1回・硬
お腹が弱くてすぐ消化器症状出る。気持ち悪くなって食欲なくなる。甘いものは食べたくなる。飲み会のあとお腹がちゃぷちゃぷする
[既往歴] なし
[内服] 半夏厚朴湯

[漢方所見]
体格:普通, 顔色:普通, 皮膚:湿潤
(舌診) 色:淡紅, 湿潤:湿潤, 大きさ:胖大, 苔:白薄, 歯痕:(+),舌下静脈怒張:(+),
(脈診) やや虚,やや遅
(腹診) 腹力:1/5,所見:振水音(+),上腹部・臍傍動悸(+),冷感(+),発汗(+)

[判断と処方]
生来の消化器の弱さが目立った。水毒で悪化していた。
半夏白朮天麻湯の条文(後述)に適合すると考え,クラシエ半夏白朮天麻湯7.5g処方した。
水毒の発作を抑えるために,ツムラ五苓散を頓服とした。

[経過]
その後,半夏厚朴湯内服を自己中断していた。
4週後の最新で,仕事を休まなくても良くなった,とのことだった。月経前も出勤できる。頓服の五苓散もたまに使用すると,尿がよく出て,雨の日に気持ち悪くなったり眠くなったりすることがなくなった。
その後も,軽度の起立性低血圧はしばしば起こるが,胃腸の調子は良くなり全身状態改善傾向にある。外来受診を継続している。

[考察]
半夏白朮天麻湯は胃腸が虚してめまいがあるものに使用する。原典は脾胃論で,「眼黒く頭旋り,悪心煩悶。気短促,上喘し力無くして言うを欲せず。心神顛倒し,兀兀(ごつごつ)やまず。目あえて開かず。風雲の中にあるがごとく,頭苦痛して裂くがごとく,身重くして山のごとし。四肢厥冷して安臥する事を得ず」とある。半夏,白朮・蒼朮,陳皮,茯苓,人参,生姜・乾姜と六君子湯の要素に,天麻(鎮痙鎮痛),麦芽(健胃・熱を除き気を増し中を調える),神麹(健胃・消化促進),黄耆(体表を補い堅きを緩め寒を除く),沢瀉(利尿・熱を去り燥きを潤す),黄柏(健胃・血熱を除き下痢を止め腹痛を治す)を加えたもの。平素より胃腸が虚弱で,胃内停水があり,外感や精神的ショックや不摂生などで胃内の水毒が動揺して上逆し,頭痛,めまい,嘔吐を発するものに用いる。本症例はこの原典の記載に適合したため使用したところ効果を認めた。また,併用していた五苓散も利水作用あり,本患者ではそれらの影響も存在したと考えられた。
(参考)「活用自在の処方解説」「漢方診療医典第6版」「新古方藥嚢」

2010年12月22日

055 むずむず脚症候群 84歳男性

[症例] 84歳男性
[主訴] むずむず脚症候群
[東洋医学治療開始日] 10月
[現病歴] 不眠症、胃潰瘍を加療されていた方。精神科では神経症圏の可能性も検討されていた。不眠症加療目的の精神科受診時に、TVでみたドーパミン作動薬が自分にぴったりだと処方希望あり。
[他症状] 寝るとき、足が熱をもつのが気になる。それが不眠の原因になっているわけではないとおもう。
[既往歴] 慢性腎不全
[内服] プロトンポンプ阻害薬、ミヤリ散、抗精神病薬(ペルフェナジン)、脂質代謝改)薬(ポリエンホスファチジルコリン)、ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬(4種類)、

[現症] 身長高い、体格がっちりとしている
[検査] 腎不全(BUN 54、Cre 2.36、Hb 9.3)

[漢方所見]
(望診) しっかりとしたスーツ姿

[判断と処方]
慢性腎不全あり、ドーパミン作動薬はリスクが高かった。
東洋医学的に治療することとし、むずむず脚症候群に対し八味地黄丸内服開始した。

[経過]
2週間後、「足がほてるのはよくなりました。あれは効きますね」
「今困ることは特にありません。若干寝つきがわるいかなと思うが生活習慣で調整する」

(感想)
慢性腎不全とむずむず脚症候群を同時にもっていたため八味地黄丸を使用したところ著効した症例。精神科ではさまざまな症状をいつも訴えて神経症圏も疑われていたがすべてすっきりと落ち着いたのが印象的だった。

054 腹痛 63歳男性

[症例] 63歳 男性
[主訴] 腹痛
[初診] 9月(漢方治療は10月)
[現病歴] 以前から食後に右上腹部が重い感じがあった。初診2日前から胃の右側の痛みに変わり、一日中寝ていた。その後も疼痛続いたため受診した。
[痛みの性質] きゅーっと筋肉がしまる感じ、食後に悪化する
[他症状] 黒色便(+)
[生活歴] 喫煙(-)
[既往歴] 交通事故で頚椎捻挫

[現症] 頭頚部異常なし(眼球黄染なし)、腹部やや満、圧痛(-)、胆嚢ふれず
[検査] 血液検査:異常なし(貧血なし)、腹部超音波:異常なし、上部消化管内視鏡:異常なし(潰瘍、瘢痕なし)
→肝胆疾患は否定的で、胃十二指腸潰瘍もなし、制酸薬での経過観察で腹痛は軽減したが、腹部の違和感残存した。東洋医学で加療をすることとした。

[他症状] ストレス多い。首から上に症状が出るからよく葛根湯を飲む

[漢方所見]
(聞診)か細い声
(舌診)黄苔、舌下静脈正常
(脈診) 右>左

[判断と処方]
器質的な異常からの疼痛ではなく、機能性の異常の可能性が高い
気虚、気滞、気鬱あり
香蘇散7.5g分3開始

[経過]
3週間後、「のみはじめて2〜3日で痛みなおりました。首から上はやっぱり重いですね」
効果があった。相談の上で、症状がきえたため内服中止とした

(感想)
長期間続く腹痛あり、香蘇散を使用したところ3日で改善した症例。腹痛という症状からの処方の選択ではなく、東洋医学的病態を検討したことがよかったと感じた。

053 右上腹部痛 79歳女性

[症例] 79歳女性
[主訴] 右上腹部痛
[初診] 9月
[現病歴] もともと便秘がち。兎糞状の便。今まで右上腹部痛経験したことはなかった。1日前、14時から約2時間下腹部痛があった。トイレに3〜4回いったら兎糞状の便がでて痛み消えた。朝9時頃、右上腹部が痛くて目が覚めた。朝、2回排便があったが痛み改善せず。寝てもおきても痛かった。近医受診し当院に内科に紹介された。
[痛みの性質] 波なし、息をするときに鈍痛あり、刺すような痛みではなく今まで経験したことのない種類の痛み。吸気、歩行で増悪する。放散痛なし。 
[既往歴] 虫垂炎を手術で治療、癒着あり再手術、甲状腺を手術したため検査を年1回している。
[内服] 常用薬なし、下剤使用していない
[家族歴] 特記すべきことなし

[現症] 頭頚部異常なし、腹部軟、腸音正常、ガス(++)、便塊を腹壁越しに触れる、右上腹部と左下腹部最強も全体的に圧痛あり、吸気で右上腹部の疼痛悪化しない
[検査] 腹部超音波:胆嚢肝臓含め異常所見なし、胸部X線:異常なし、腹部X線:ガス多い(イレウス認めず)、血液: ヘモグロビン11.8と貧血傾向、他明らかな異常なし
[処置] 便秘疑い浣腸施行も液が出るのみ、便塊肛門からふれず、腹痛持続 
→東洋医学で対処することにした

[漢方所見]
(望診) 身軽に動いている、やせている

[判断と処方]
消化管の機能低下、蠕動運動不十分なことから疼痛が生じている可能性あり。
ミヤリ散3g分3、麻子仁丸2.5g分1、大建中湯15g分3開始した。

[経過]
2週間後、「おなかはったり痛かったりすることはまだあるが前ほどではない、通じは毎日はないけれど一回の量は少なくなり回数ふえた。右上腹部はもう痛くない」
「冷え性なんです。足や手はつめたくて・・・」「前からですが、やせて・・・」
→処方継続

2ヵ月後「よくなりました。通じの時間は不規則だけれど、毎日でます」
4ヵ月後「前みたいにころころした便はなくなった。いつもは手足が冷たくて電気毛布をあつくしていたけれど、今はおかげさまであったかいです」
→ 改善傾向みとめるので処方継続

(感想)
腸の運動が低下しているときの大建中湯の効果を実感した。冷え性があると効きやすく、また冷え性も改善する。

051 78歳男性 喉のいがいが・咳・痰

[症例] 78歳男性
[主訴] 喉のいがいが・咳・痰
[初診] 9月
[現病歴] 約10年前からのどの違和感、咳、痰あり。医者にかからず様子をみていたが最近症状が悪化傾向あった。一度医者にみてもらおうと受診した。
[生活歴] 酒 焼酎0.5合、タバコ(-)
[既往歴] 脊柱管狭窄症(1年前手術)
 健康診断は毎年受けているが異常は指摘されていない
[内服] 薬草を煎じてのんでいる(ゲンノショウコ、ドクダミ、ハトムギ)
[家族歴] 6人兄弟、全員健康
[性格] のんき
[他症状] ニクを食べると左足が2〜3日痛くなる、ホルモンは特にだめ
[ROS] ストレスは感じない、唾液は多量に出るが困らない

[現症] 明らかな異常所見なし
[漢方所見]
(望診) 身長高い、脂肪少なく筋肉質、表情明るい
(舌診)黄色苔少量、厚さは薄い
(脈診)やや弱

[判断と処方] 判断少ないが、10年前からの器質的な異常があるとは考えにくい。半夏厚朴湯6g分3で様子見とした。
[経過]
2週間後、「だいぶよくなった! 咳もだいぶよくなったよ。夜中も咳が出ない。家内もえらい良くなったといっている。薬は飲みいですよ」
2ヵ月後、3ヶ月とさらに症状改善も、軽度も残存しているため内服継続としている。

(感想)
咽喉頭異常感症はストレスで出現すると感じていたが、明らかなストレスなく、またストレスを感じやすい気質でもなかった症例。ストレスにこだわる必要はないと学んだ。

2010年11月17日

050 頭痛 43歳男性

[症例] 43歳男性
[主訴] 頭痛
[初診] 10月
[現病歴] 「後頭部がじわーんするような頭痛」が春からある。夏からは頭痛に
加え動揺性めまいも出現するようになった。脳外科受診も脳に異常はなく、緊張
性頭痛の診断で緊張をほぐす薬を処方された。頭痛は突然来る。受診2日前、動
悸ありすわっているのがやっとの状況だった。1日前の夕方も、突然の耳鳴りに
続いてめまいが出現した。歩くことができないため家まで送ってもらった。
[自己評価] ストレス強い。自分なりに対処しているが整理できていない
[生活歴] 睡眠 23時〜5時半、食欲 普通、飲み物 会社では缶コーヒー・家
では焼酎2杯、大便 毎日ある・有形、小便 夜間起きない
[既往歴] なし
[家族歴] なし

[現症] 中肉中背、多弁
[漢方所見]
(舌診)歯痕(+)、腫大(-)
(脈診)浮・細、左関微弱、左寸弦

背中、肝ユ(肩甲骨下)が張っている

[判断と処方]
自律神経の乱れからの諸症状。
東洋医学的には肝の乱れが目立つ。

抑肝散 7,5g分3処方

[経過]
「薬を2週間のんで症状はほぼおちつきました」

1か月分追加処方し、自己調整いただき、症状継続すれば再診いただくこととした。

(感想)
抑肝散はもともと子供の癇の虫の薬だが、不穏・興奮状態の高齢者に現在はひろく使われている。特に、軽度な段階で抑肝散を使うととてもおちつき、介護が楽になっていく。そのように高齢者に使う薬として認識され一般内科で使用されているが、このストレス社会な現代はストレスからの自律神経失調症で効くことがよくある。

また、この症例のように、背中のツボをさすって探すことが大きなヒントになることがある。問診しながら背中をさすりそのひとの状態を大雑把に把握することは、鍼灸師はよく行っている手法。しばしば便利。