2013年01月16日

引っ越しすることにしました

サイト更新がなかなかできずにおりました。そろそろいじっていかないと…と思いたち、思い切って引っ越すことにします。古い記事は少し手を入れてみることにします。そちらでも今後ともよろしくお願いします。

かけだし総合医ちうの漢方カルテ
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2012年11月26日

058 全身のしびれ感 47歳女性

[症例] 47歳女性
[主訴] 全身のしびれ感
[初診] 4月
[現病歴] 冬から手足のしびれ感・疼痛あり.整形外科,内科で精査するも異常なし.症状は月経前に強い.天気とは無関係.突然始まり自然と治る.めまいがでるときもある.
[生活歴] 喫煙(-),飲酒(-)
[既往歴] 自律神経失調症(38歳〜 スルピリド(ドグマチール)内服中)
[現症] 体重41kg・身長164cm
下肢 軽度の浮腫
[検査] 血液検査異常なし(甲状腺異常なし),頚部MRI異常なし
[漢方所見]
(舌診) 先端紅
(脈診) 細
(腹診) 肋骨角度狭小,臍上悸,臍右下圧痛あり

[判断と処方]
漢方的には動悸が目立つ
→桂枝加竜骨牡蛎湯 3包分3
むくみあり
→五苓散 3包分3

[経過]
●2週間後
「桂枝加竜骨牡蛎湯は効いていると思います.一時やめてみたら症状悪化,再開したら改善」
→継続
●7週間後
「頭はすっきりした感じ.動悸は毎日じゃなくなった」
→桂枝加竜骨牡蛎湯のみに変更
●3ヶ月目
「数週間前,飛行機に乗ったら緊急着陸してくれと叫びたくなるほど動悸がした.」
「腹部動悸は4月は常にあった,5月は小刻み,6月からは触ってもわからなくなった」
腹部動悸軽度に。
脈 弦,舌 先端紅
漢方的には熱が心にこもっている印象.
→清心蓮子飲 に変更
●4ヶ月目
「とてもよくなってきている.でも,1週間前内服中止してみたら,受診日朝から手足と顔にビリビリという感じが出現.清心蓮子飲をのんで,お腹の調子がいい.いつも夏になると下痢をしていたのが今年はでない.」「桂枝加竜骨牡蛎湯は元気になる薬だった」
舌 黄苔,先端紅
→朝昼 桂枝加竜骨牡蛎湯,夕 清心蓮子飲 に

(補足)
 桂枝加竜骨牡蛎湯は、西暦200年頃にかかれた傷寒論・金匱要略に記載された方剤。もともとは、「小腹弦急し、陰頭冷え、目眩し、髪落ち、失精、夢交する証」つまり、性的な衰弱に用いた薬である。現代では、気逆といって気の流れが下に向かわず上にのぼるようになる状態によく使用する。内容は、風邪薬の基本薬であり気の流れをととのえる桂枝湯に、気をしずめ気分を落ちるける牡蛎(カキの貝殻)と竜骨(古代の哺乳類の化石)を加えたもの。上腹部の動悸が目立つひとに効きやすい。
 五苓散も同じく傷寒論に記載された薬。水を調整する薬が4種類と、桂枝(シナモン)で構成された方剤。科学的には水チャネルであるアクアポリンに働くことが示されている。西洋薬では水分が多すぎるときは、利尿剤で血管内の水を除くことを通して、血管の外側から水を吸い出す、という作業をする。いわゆる、「利尿薬」である。けれど、それだけでは血管の外の水、つまりむくみ、はなかなか取れないことがある。五苓散を代表とする漢方薬の「利水剤」は、全身の細胞に働いてむくみをとる。利尿薬のように頻回にトイレにいく必要もなく体調も整う。
 清心蓮子飲は、1107年頃に中国で発行された和剤局方に記載された方剤。もともと胃腸が虚弱な人が抑うつと排尿障害を合併しているときに使用する。イライラしていて舌の先端が赤くなっているひとに効きやすい。

 漢方複数種飲むと、効果が不明瞭になるため本来は避けるべき。本症例は、一剤でなおせないかと迷いつつも、結局複数の薬を重ねてしまった。全身を同時に治せる1剤がなかったのか検討中.

2012年01月18日

057 ストレス 30歳男性

[症例] ストレス反応,30歳男性
[主訴] 不眠,肩こり
[初診] 7月
[現病歴] 1ヶ月前,暑くなり始めてから中途覚醒するようになった。合計6時間の睡眠中2回起きる。やや不調の精神状態と自覚している。いまひとつ気分がすっきりしない。同時期から肩こりが悪化傾向にある。漢方薬で治療できないかと考え受診した。
[生活歴] タバコ(-),酒(5回/週,ビール約1L),大学院生(ストレス反応について研究)
[既往歴] なし(暑気あたりの既往なし)
[家族歴] 父:高血圧・糖尿病,母:大動脈解離

[他症状] 食欲普通,中途覚醒(+),早朝覚醒(+),小便5〜6回/日,夜間尿(-),便1回/日・普通便, 疲れやすい,汗をかきやすい,寝汗(+),頭重(+),気分が憂鬱になる,いらいらする,水分をよく取る,足がむくむ,目が疲れる,目がかすむ,首・肩・背中・腰がこる,暑がり(熱証)

[現症] 体重60kg,身長170cm,血圧120/60mmHg,脈拍66/分,

[漢方所見]
(望診)普通
(舌診)淡紅,湿,やや大,薄白苔,歯痕あり,舌下静脈+-
(脈診)弦
(腹診)腹力4/5,心下部緊張,肋骨下緊張(+/++),腹直筋緊張(+/+),腹部動悸(++),
臍下圧痛(+/+), 鼠径部圧痛(+/+)

[判断と処方]
ストレスによる気うつ強い

[経過]
ストレスが強いと考え 四逆散 を処方した。むくみあるので頓用で 五苓散 を処方した。
10日後,「ストレスがすーっとおちた。よく眠れる。体の緊張取れた。肩こりへった。二日酔いなくなった」
その後も四逆散の定期内服がなくなるとストレスで体調不良になるため,内服を継続している。

(考察)
四逆散の原典は傷寒論,少陰病篇に「少陰病,その人或いは嗽し,或いは悸し,或いは小便不利し,或いは腹中痛み,或いは泄理下重の者は,四逆散之を主る」とある。裏熱のために正気が外に伸びることができなくなって,四肢の厥冷した状態を目標にするという意味である。ただし,この章は錯簡があるとされ,胸脇苦満と腹直筋の攣急という腹証によって用いることが良いとされる。やや実証に用いる柴胡剤である。柴胡・枳実・芍薬・甘草で構成される。甘草・芍薬の二味が合わさることで両脇を緩め,胸中心下を押し開く。ここに,胃腸を促進し腹中の滞った気を通じる枳実,半表半裏の熱を去る柴胡が加わっている。この方と小柴胡湯を合方し,人参と甘草を去り大黄を加えると大柴胡湯となる。芍薬甘草湯の加味方とも解釈できる。医中誌では,ストレス反応またはストレスを原因とした疾患に対する報告が多くある。本症例も,ストレスが根本的な原因と考えられたため四逆散を使用したところ効果を認めた。肩こりに対しては,ストレス除去に加え,芍薬甘草湯として筋緊張の軽減にも効果があったと考えられた。また,本例では水毒も体調不良を増悪させていると考えられたため五苓散頓用で利水をはかったことも,治療効果を強めたと考えられた。
参考:大塚敬節「臨床応用傷寒論解説」「漢方210処方生薬解説」「新古法薬嚢」

2011年11月11日

056 めまい 29歳女性

[症例] 29歳女性
[主訴] めまい
[東洋医学治療開始日] 6月
[現病歴] 月に1〜2回,天気の悪い日に体辛くて起き上がれなくなる症状があった。転職,異動で症状悪化した。出勤できなくなるため,3ヶ月前に婦人科を受診し,桂枝茯苓丸加薏苡仁,半夏厚朴湯,当帰芍薬散,抑肝散加陳皮半夏を処方されためした。桂枝茯苓丸加薏苡仁はにきびによく効いた。半夏厚朴湯で気分は良くなった。当帰芍薬散では腹痛出現した。受診時は半夏厚朴湯を飲んでいた。しかし,起き上がれなくなる症状継続しており,異なる治療を希望して,当院漢方外来受診した。

[他症状] 顎にニキビあり
月経周期30日,出血期間7日,出血量多〜普通
生理2日前から気分が落ち込みやすくなっていらいらする,眠くなる,便秘傾向でてくる,月経痛はたまにすごく痛いが普段はそれほどでもない。社会人になって悪化した。生理始まれば楽になる
排便1日1回・硬
お腹が弱くてすぐ消化器症状出る。気持ち悪くなって食欲なくなる。甘いものは食べたくなる。飲み会のあとお腹がちゃぷちゃぷする
[既往歴] なし
[内服] 半夏厚朴湯

[漢方所見]
体格:普通, 顔色:普通, 皮膚:湿潤
(舌診) 色:淡紅, 湿潤:湿潤, 大きさ:胖大, 苔:白薄, 歯痕:(+),舌下静脈怒張:(+),
(脈診) やや虚,やや遅
(腹診) 腹力:1/5,所見:振水音(+),上腹部・臍傍動悸(+),冷感(+),発汗(+)

[判断と処方]
生来の消化器の弱さが目立った。水毒で悪化していた。
半夏白朮天麻湯の条文(後述)に適合すると考え,クラシエ半夏白朮天麻湯7.5g処方した。
水毒の発作を抑えるために,ツムラ五苓散を頓服とした。

[経過]
その後,半夏厚朴湯内服を自己中断していた。
4週後の最新で,仕事を休まなくても良くなった,とのことだった。月経前も出勤できる。頓服の五苓散もたまに使用すると,尿がよく出て,雨の日に気持ち悪くなったり眠くなったりすることがなくなった。
その後も,軽度の起立性低血圧はしばしば起こるが,胃腸の調子は良くなり全身状態改善傾向にある。外来受診を継続している。

[考察]
半夏白朮天麻湯は胃腸が虚してめまいがあるものに使用する。原典は脾胃論で,「眼黒く頭旋り,悪心煩悶。気短促,上喘し力無くして言うを欲せず。心神顛倒し,兀兀(ごつごつ)やまず。目あえて開かず。風雲の中にあるがごとく,頭苦痛して裂くがごとく,身重くして山のごとし。四肢厥冷して安臥する事を得ず」とある。半夏,白朮・蒼朮,陳皮,茯苓,人参,生姜・乾姜と六君子湯の要素に,天麻(鎮痙鎮痛),麦芽(健胃・熱を除き気を増し中を調える),神麹(健胃・消化促進),黄耆(体表を補い堅きを緩め寒を除く),沢瀉(利尿・熱を去り燥きを潤す),黄柏(健胃・血熱を除き下痢を止め腹痛を治す)を加えたもの。平素より胃腸が虚弱で,胃内停水があり,外感や精神的ショックや不摂生などで胃内の水毒が動揺して上逆し,頭痛,めまい,嘔吐を発するものに用いる。本症例はこの原典の記載に適合したため使用したところ効果を認めた。また,併用していた五苓散も利水作用あり,本患者ではそれらの影響も存在したと考えられた。
(参考)「活用自在の処方解説」「漢方診療医典第6版」「新古方藥嚢」

2010年12月22日

055 むずむず脚症候群 84歳男性

[症例] 84歳男性
[主訴] むずむず脚症候群
[東洋医学治療開始日] 10月
[現病歴] 不眠症、胃潰瘍を加療されていた方。精神科では神経症圏の可能性も検討されていた。不眠症加療目的の精神科受診時に、TVでみたドーパミン作動薬が自分にぴったりだと処方希望あり。
[他症状] 寝るとき、足が熱をもつのが気になる。それが不眠の原因になっているわけではないとおもう。
[既往歴] 慢性腎不全
[内服] プロトンポンプ阻害薬、ミヤリ散、抗精神病薬(ペルフェナジン)、脂質代謝改)薬(ポリエンホスファチジルコリン)、ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬(4種類)、

[現症] 身長高い、体格がっちりとしている
[検査] 腎不全(BUN 54、Cre 2.36、Hb 9.3)

[漢方所見]
(望診) しっかりとしたスーツ姿

[判断と処方]
慢性腎不全あり、ドーパミン作動薬はリスクが高かった。
東洋医学的に治療することとし、むずむず脚症候群に対し八味地黄丸内服開始した。

[経過]
2週間後、「足がほてるのはよくなりました。あれは効きますね」
「今困ることは特にありません。若干寝つきがわるいかなと思うが生活習慣で調整する」

(感想)
慢性腎不全とむずむず脚症候群を同時にもっていたため八味地黄丸を使用したところ著効した症例。精神科ではさまざまな症状をいつも訴えて神経症圏も疑われていたがすべてすっきりと落ち着いたのが印象的だった。

054 腹痛 63歳男性

[症例] 63歳 男性
[主訴] 腹痛
[初診] 9月(漢方治療は10月)
[現病歴] 以前から食後に右上腹部が重い感じがあった。初診2日前から胃の右側の痛みに変わり、一日中寝ていた。その後も疼痛続いたため受診した。
[痛みの性質] きゅーっと筋肉がしまる感じ、食後に悪化する
[他症状] 黒色便(+)
[生活歴] 喫煙(-)
[既往歴] 交通事故で頚椎捻挫

[現症] 頭頚部異常なし(眼球黄染なし)、腹部やや満、圧痛(-)、胆嚢ふれず
[検査] 血液検査:異常なし(貧血なし)、腹部超音波:異常なし、上部消化管内視鏡:異常なし(潰瘍、瘢痕なし)
→肝胆疾患は否定的で、胃十二指腸潰瘍もなし、制酸薬での経過観察で腹痛は軽減したが、腹部の違和感残存した。東洋医学で加療をすることとした。

[他症状] ストレス多い。首から上に症状が出るからよく葛根湯を飲む

[漢方所見]
(聞診)か細い声
(舌診)黄苔、舌下静脈正常
(脈診) 右>左

[判断と処方]
器質的な異常からの疼痛ではなく、機能性の異常の可能性が高い
気虚、気滞、気鬱あり
香蘇散7.5g分3開始

[経過]
3週間後、「のみはじめて2〜3日で痛みなおりました。首から上はやっぱり重いですね」
効果があった。相談の上で、症状がきえたため内服中止とした

(感想)
長期間続く腹痛あり、香蘇散を使用したところ3日で改善した症例。腹痛という症状からの処方の選択ではなく、東洋医学的病態を検討したことがよかったと感じた。

053 右上腹部痛 79歳女性

[症例] 79歳女性
[主訴] 右上腹部痛
[初診] 9月
[現病歴] もともと便秘がち。兎糞状の便。今まで右上腹部痛経験したことはなかった。1日前、14時から約2時間下腹部痛があった。トイレに3〜4回いったら兎糞状の便がでて痛み消えた。朝9時頃、右上腹部が痛くて目が覚めた。朝、2回排便があったが痛み改善せず。寝てもおきても痛かった。近医受診し当院に内科に紹介された。
[痛みの性質] 波なし、息をするときに鈍痛あり、刺すような痛みではなく今まで経験したことのない種類の痛み。吸気、歩行で増悪する。放散痛なし。 
[既往歴] 虫垂炎を手術で治療、癒着あり再手術、甲状腺を手術したため検査を年1回している。
[内服] 常用薬なし、下剤使用していない
[家族歴] 特記すべきことなし

[現症] 頭頚部異常なし、腹部軟、腸音正常、ガス(++)、便塊を腹壁越しに触れる、右上腹部と左下腹部最強も全体的に圧痛あり、吸気で右上腹部の疼痛悪化しない
[検査] 腹部超音波:胆嚢肝臓含め異常所見なし、胸部X線:異常なし、腹部X線:ガス多い(イレウス認めず)、血液: ヘモグロビン11.8と貧血傾向、他明らかな異常なし
[処置] 便秘疑い浣腸施行も液が出るのみ、便塊肛門からふれず、腹痛持続 
→東洋医学で対処することにした

[漢方所見]
(望診) 身軽に動いている、やせている

[判断と処方]
消化管の機能低下、蠕動運動不十分なことから疼痛が生じている可能性あり。
ミヤリ散3g分3、麻子仁丸2.5g分1、大建中湯15g分3開始した。

[経過]
2週間後、「おなかはったり痛かったりすることはまだあるが前ほどではない、通じは毎日はないけれど一回の量は少なくなり回数ふえた。右上腹部はもう痛くない」
「冷え性なんです。足や手はつめたくて・・・」「前からですが、やせて・・・」
→処方継続

2ヵ月後「よくなりました。通じの時間は不規則だけれど、毎日でます」
4ヵ月後「前みたいにころころした便はなくなった。いつもは手足が冷たくて電気毛布をあつくしていたけれど、今はおかげさまであったかいです」
→ 改善傾向みとめるので処方継続

(感想)
腸の運動が低下しているときの大建中湯の効果を実感した。冷え性があると効きやすく、また冷え性も改善する。